放流
ロッキンで焼けた手の甲の皮膚がはがれつつある手で、
ついさっき来年2月のカンボジア旅行の予約をすべて済ませた。
初東南アジア、初途上国、そして何より緊張する初一人旅!
ホテルは男女共用の部屋と迷い、結局女子部屋にし(3泊だし)、
アンコールワットへの英語のオプショナルツアーも申し込み、
あとは装備を買い、ビザを取り、空いた1日に何をするか決めるだけ。
行く前にバッグパッカーの先輩方に色々教えてもらおう、楽しみ。
今週は会社を早退してSの完成披露試写会に母と行き
向井理の顔の小ささに世界の遠近感と骨格形成の不思議を考え、
綾野剛の放つ雰囲気にこの人改めて好きだな、と思わされ、
青木崇高さん(何故かさん付けしてしまう)のスタイルに惚れ、
挨拶の時に「青木さーん!」と叫んでしまい「どーも!」と
反応して頂き死んだ。なんていい人なんだ、ついていこう。
そんなこんなで興奮しつつ帰宅し、0時に向けてスタンバイするは
金曜日のジュラシック・ワールドのMX4Dチケットのネット予約。
秒針が回った瞬間にF5と回を自分でも驚くべき速さで押し、
無事に私と彼の2人分のチケットをきっちり確保した。
金曜日は老害の絡みがうざく、女子社員で老害撲滅同盟を組んだ。
定時になった瞬間に総務さんと私はびゅーんと会社を飛び出し、
仕事全然終わってないけど放り投げて会社出た、という
終わらないからドタキャン覚悟もしていた奴からのLINEに笑った。
今乗り換えてる、電車たぶん1本差だから改札で待ち合わせに変更、
了解、と文字だけの短いやり取りが続いて途切れる。
焦げたな、と改札越しに見る彼の頭一つ抜けた姿を見て思う。
手を軽く振って気付いたのを確認すると、何故か気持ちが少し弾んだ。
映画は私のおごりだからとりあえずコーラを買ってくれたまえ、
とキャンプの感想を聞きながらMX4D対策にペットボトルのコーラを、
小腹を満たすためにバター醤油のポップコーンを買ってもらい
初MX4D+久々の3D鑑賞の彼にあれこれ教えながら席について、
映画が始まるまでポップコーンを空腹だった私たちはむさぼった。
私が持っている袋に伸びてくる腕は、私が食べる手を少し止めると
ひょいっと自分の方に持っていき、私が取りやすい位置に留めてくれた。
タイミングを計ってウエットティッシュを差し出そうと、
ふと彼の方を見ると3Dとのダブルメガネで笑いが止まらなくなってしまい、
噛み殺しながらジュラシック・ワールドの世界に飛び込んだ。
途中のシーンで顔を見合わせてインディペンデンス・デイやん!と
小声で笑いあい、単純なひっかけにびびって彼のシャツを掴むと、
振り払われなかったので時折掴むものが欲しかった時には借りた。
見終わって幼少期に見た最高傑作の1を上回れなかった点を羅列し、
ビールが飲みたい、とおおかた予測していたリクエストに
前に行ったクラフトビール屋を提案すると乗ってくれた。
お互いの好みを知っている彼とビールを選ぶのはいつも楽しい。
ちょっと迷って一杯目を頼み、来週の話から始まり、
私たちは昔や未来の話をしては笑ったり、注意しあったりする。
興味ないふりして、結婚にこだわってるなら時間ないんだから
なりふり構わず行動しろよ、と図星を言われてちょっとむかっときたので
正直言うと結構本気で君と結婚したいんだけど、と言うと
一瞬固まり、トイレに行く後姿を見てほくそ笑んだ。
そのポーカーフェイスが、皮肉な笑みが崩れる瞬間を見るのが好きなんだ。
私はタクシーで帰れるので、全然時計を見てない彼の代わりに
ちゃんと終電間際で駅まで見送ってタクシーに乗った。
シートに沈むように座ると、ぶっちゃけ過ぎて困らせすぎたかな、と
少し申し訳なくなって、来週はあまり踏み込んだ話はやめようと思った。
今日も心療内科の先生に、ちょっと自分が苦しくなりそうなんで、
上手い距離の取り方を勝手に傷つく前に決めますと宣言して、
彼のことは流れに任せて、手放してみようと、小さな決意。