神様のヒマ潰し

The trick is living without an answer.

友達への戻り方

私のバイブル漫画その2の「潔く柔く」の最終巻に収録されている、
百加が主役の短編「潔く柔く -切々と-」にこんな台詞がある。

「再び会ってみるとあたしたちはまだ友達だ
数か月会わなくてもすぐ元通りそれが友達だ
そう思うと今までより幾らか心も軽くなったけれど
また同じことをくり返すのかと思うと
もう あたしはこの復活を手放しで喜べやしない」

一昨日に6月に情緒不安定からぶっちした元彼との飲みに、
先週にこの前はごめん、復活したしもうすぐ誕生日だし、
お詫びにビールご馳走するよ、とLINEを入れたら、日曜日に突如
「明日の夕方なら空いてる」とドライな返事が来て、
ちょうど美容院の予約が終わるころだったから二つ返事で了承した。

髪の毛をばさばさ切ってもらいながら、何話そう、
ちゃんと喋れるかな、ぎくしゃくしたらどうしよう、と悩み、
横浜まで向かう電車の中で安定剤をいそいそと飲んだ。
駅に着くと再来週のボーイスカウトのキャンプの道具を選んでるらしく、
お店の住所が送られてきて、迷ってたどり着いたら、普通に居た。


最初の一言を発した瞬間に私が勝手に感じていた気まずさは消え、
私たちは友達だったころの様に会話が途切れること無く喋った。
違和感もぎくしゃくもないまま、「いつものように」喋り続けた。

来年の途上国旅行シリーズのためにバッグパック買おうかな、と
ふらふら迷う私に面白そうだからなんか背負ってみてよ、と言われ
試しに背負ってみたら「めっちゃおもろい」と笑われ、
友達だったころから何一つ変わっていなテンションにとても安心した。

買い物が終わりビールのお店に向かいつつ、
彼がほとんど覚えていない大学の同級生たちの近況を報告し、
ビールを飲みながら私の幼馴染の男の子について喋り、
来月東京来るんだよ、と言うと飲むんだったら俺も混ぜてよ、とのこと。
選んでもらった服が皆に褒められるんだよ、と言うと嬉しそうで、
出会いがないねえとお互い愚痴り、飲みきれないビールを飲んでくれた。
ビールをおごるはずだったのに気が付いたらフレンチフライを買っててくれた。


飲み終わり、お腹空いたからラーメンかマック!と言う彼に
私は昼ラーメンだったからマックでシェイク飲みたい、と提案し、
駅までの道を歩きつつ何度か手が触れては離れ、少し悲しくなった。
付き合っていた間に「お前は手を繋がないと死ぬのか!」と怒られながら
なんやかんや手を繋いでくれたのは、彼の精一杯の優しさだったんだろう。

もう耐えきれなくなった私は好きだった手を触らせてくれよー!
と本能のおもむくままに絶叫してしまい、横浜のど真ん中で彼を困らせた。
5秒ほど繋がれた手がぶっきらぼうに離されたとき、
もうこの手をつなぐことはこの先ないだろうなとなんとなく思った。
でもマックでは相変わらず喋っていられたことに安心した。


復活した友情に、私は心地よさを感じているけど、
それと同時に距離が一度だけ近づいた2か月も少し懐かしくもなった。
以前は何でも話せる男友達だったのに、少しだけ話題を選ぶようになった。
少しだけ、自分を良く見せたくなってしまう欲が密かに生まれた。

君が近くに居なくても私は平気だし、と妙にクールぶりたくなる。
仕事も頑張って、自分をもっと好きになって、自然に眠くなりたい。
自分で自分を幸せに出来る余裕が生まれたら、次に付き合う人には依存しないで、
相手のことを計算抜きで幸せにしたいと思える恋を、延長線上で結婚がしたい。


俺のことネタにしてブログ書いてるならアドレス教えてよ、と言ってきた彼に、
その主張はごもっともなんだけどさ、来年アフリカ旅行から帰ってきたら、
壮大な物語になってるはずだからその時に教えるよ、と笑ってごまかした。
いやあさっきのバッグパック姿面白かったよ、とまた笑われて、
めっちゃたくましくなって帰ってくるから!と、言って
「いつものように」私は彼の方を見ながら、彼は私を視界に入れつつ
目の前を真っ直ぐ見て、2人で、笑った。